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すぐにわかる「合同会社」とは?株式会社との違い、費用、設立の手順を解説
- 公開日:2021年12月 6日

近年設立の件数が徐々に増えている合同会社。認知度が高まっていることに加え、設立の手続きが株式会社に比べて簡単なこと、費用が少なくすむことから、小規模企業を中心に合同会社を選ぶケースが増加しています。今回は、合同会社について、株式会社との違いを見ていきましょう。
合同会社とは?
合同会社とは、出資者と経営者が同一で、出資者は全員が有限責任である会社形態のことです。「LLC」と呼ばれることもあります。有限責任は自身が出資した分だけとなり、出資した以上の負債に責任を負う必要がありません。
日本では大手EC企業や大手小売チェーン企業、外資系企業でも大手IT企業の日本法人も合同会社という形態をとっています。株式会社から合同会社に変更するというケースも多く、それは出資者と経営者が同一であることから、意思決定がスピーディであることや、決算公告が不要などの点から変更されていると考えられます。
会社の形態には株式会社、合同会社、合名会社、合資会社の4種類があります。そのうち2020年に設立されたのは、以下のとおりです。
株式会社:85,688
合同会社:33,236
合名会社:34
合資会社:41
総数118,999のうち3割以上が合同会社なのです。
合同会社設立数の推移を見ても、2012年に比べて2020年は3倍と増加傾向にあります。

出典:e-Stat 政府統計の総合窓口|登記統計 商業・法人
合同会社と株式会社の違い
上記のように大部分を占める株式会社と合同会社。それぞれの違いを確認しましょう。

一般的に「社員」というと、会社の従業員の意味で用いられますが、会社法上は、合同会社の出資者を社員といいます。株式会社と出資者の呼称が異なるのは、合同会社は株式を発行しないためです。
合同会社は、合名会社や合資会社と同様に、出資者がそのまま会社業務を執行することから、出資を受けるにあたり、既存の社員全員の同意が原則として必要です。合同会社は株式会社に比べてクローズドな会社といえます。
出資者の最低人数が1人であること、出資者の責任が有限責任であることは株式会社も合同会社も同じとなります。
合同会社のメリット
上記の表をもとに、合同会社の主なメリットを紹介します。
- 設立費用が安い
詳細は後述します。 - 決算公告が不要
決算公告の義務がないのでその分の手間とコストがおさえられます。 - 役員任期の更新がいらない
株式会社の場合、役員の任期は定款で決められていて、延長する場合には定款に記載する必要がありますが、合同会社の場合は役員任期がないため、延長手続きや役員改選のコストなどをおさえられます。 - 利益配分を自由に決められる
たとえば株式会社の場合、1株あたり2,000円配分すると決めれば、100株のAさんは20万円、50株のBさんは10万円と出資割合と連動した配分が受取れます。一方で合同会社の場合、出資割合は関係なく、社員の合意で自由に決められます。ただし、配分社員同士でもめるリスクもあります。
合同会社のデメリット
次は合同会社の主なデメリットを挙げます。
- 株式会社よりも信用度は高くない
合同会社も認知度が高まってきているものの、株式会社のほうが知名度は高いです。事業拡大などによる出資者の募集は、株式会社のほうがおこないやすいといえます。 - 業務執行権を持つ社員が多くなる
合同会社の社員(=出資者)には業務執行権が付与されます。株式会社であれば役員など一部が持つ業務執行権を多くの社員が持つことになるため、意思決定などの際に混乱が生じる可能性があります。ただし、定款で定めることによって、社員の中で特定の者だけを業務執行社員とすることも可能です。 - 持分譲渡・事業承継などには社員の同意が必要
定款に別段の定めがない限り、これらの譲渡・承継などには社員全員の同意が必要であるため、手間も大きくなりますし、社内で対立を生む引き金になりうるリスクもあります。 - 株式による資金調達ができない
合同会社は上場ができないため、株式発行による資金調達はできません。資金に困っていなければ問題ないですが、事業の発展により資金が必要となった際には、資金調達の方法に限りがあることは合同会社のデメリットのひとつといえるでしょう。
合同会社設立にかかる費用
創業時に用意すべき資金を把握するためにも、会社設立にいくらかかるのか知っておきましょう。ここでは、株式会社の場合と比較しながら合同会社にかかる設立費用をお伝えします。
会社設立でかかる費用のうち、主なものは以下の3つです。
- 登録免許税
- 公証役場での定款認証費用
- 定款印紙代
上記のうち、株式会社と合同会社では、登録免許税の額が異なります。合同会社は、定款認証が不要なため費用がかからず、総額では株式会社に比べ設立費用が安いです。

※ ほかに登記事項証明書(いわゆる登記簿謄本)、代表者印鑑証明書(法務局で登録)の取得に1,000~2,000円程度必要
上記の表のように、合同会社は株式会社に比べ、1/2以下の設立費用となります。合同会社を選択したほうが、会社設立の費用面では得です。
ただし、設立時の費用を節約する理由だけで合同会社を選択することのないようにしましょう。創業時は、少しでもお金を節約したい気持ちが強くなることは仕方ありませんが、将来も見据えて意思決定することが重要です。
電子定款で印紙代の節約ができる
電子定款とは、PDF形式で作成する電子署名付きの定款のこと。電子定款を利用するメリットは、定款印紙代40,000円が不要となる点です。これは株式会社も合同会社も同じなので、設立費用を節約するなら電子定款の利用は必須といえます。
ただし、電子定款の作成には、指定されたソフトウェアの導入、役所などでの電子署名の取得が必要です。最近では、節約できる印紙代程度の金額で、司法書士などの専門家に設立を依頼できます。会社設立は、起業のスタートとなる重要なイベントですので、費用だけでなく時間や手間も天秤にかけて、ときには専門家に依頼し時間を有効活用しましょう。
合同会社設立後にかかる税金
合同会社には「法人税」「法人住民税」「法人事業税」「消費税」などがかかります。ただ、かかる税金の種類・負担は株式会社などと変わりませんので、合同会社だからといって税優遇されることはありません。
合同会社設立の手順
それでは合同会社の設立の手順を見ていきましょう。
おおまかな設立の手順と目安のスケジュールは以下となります。

株式会社との違いは「定款の認証」が必要かどうか。先述のとおり、合同会社は定款の認証が不要ですので、株式会社よりも設立までのスケジュールが数日短くなります。なお、定款の認証とは、定款が発起人によって作成されたものであることを公証人に認めてもらう手続きのことです。
1.基本事項の決定(あらかじめ決めておくべきこと)
合同会社を設立するにあたり、商号や事業目的、本店所在地などの登記事項など、多くのことを登記申請前に決める必要があります。この決定は、設立後の経営に影響を与えますので、ときには専門家に相談しながら検討しましょう。
合同会社を設立するときに、必ず決めておくべきことは、表のとおりです。表の内容をもとに定款を作成し、法務局に提出します。各項目についてじっくりと検討し、最終的に決定していきましょう。
中でも、以下の項目は、絶対的記載事項と呼ばれ、記載が漏れると、定款自体が無効になります。
絶対的記載事項

そのほかの事項は、法律上、定款に必ず記載する必要はありませんが、すべて決定し、まとめて定款に盛込むのが一般的です。
絶対的記載事項以外の項目は、相対的記載事項と任意的記載事項に分けられます。相対的記載事項とは、定めるならば定款に必ず記載しなければならない事項です。
相対的記載事項の例

任意的記載事項とは、定めた場合でも定款に記載する必要がない項目です。一度定めると変更時には手続きが必要であるため、ルールとして重みを持たせたい項目を任意的記載事項として定款に盛込みます。
任意的記載事項の例

2.会社印鑑の作成
会社印鑑は定款の作成段階では不要ですが、合同会社の設立登記で必要になるため、あらかじめ作成しておきます。印鑑専門店などの店舗のほか、通販でも作成可能です。登記時に必要な「代表者印(会社実印)」と、設立後に必要となる「銀行印」「角印」を用意しておきましょう。
3.定款の作成
1.基本事項で決めた定款内容をもとに実際に定款を作成します。とくに絶対的記載事項が漏れると、定款自体が無効になりますので注意しましょう。
4.出資金の払込み
資本金を出資者のうち1人の個人口座に振込みます。振込んだことが証明できるように通帳をコピーするか、オンラインで明細が確認できるようにしておきます。払込みのタイミングは定款作成日(電子定款の場合は電子署名日)です。
5.設立登記の申請
登記申請では、準備した設立登記申請書や定款などを持って本店所在地を管轄する法務局へ申請します。登記に必要な書類の詳細はこちらをご確認ください。
合同会社を設立するときの役員構成
定款の記載事項でも出てきた業務執行社員とそのほかの社員の違いは以下のとおりです。
業務執行役員:会社の業務をおこなう人。さらに代表社員を最低限1人選出
そのほかの社員:会社の業務に携わらず出資のみおこなう人
業務執行社員を置く場合は、株式会社に例えると以下のような関係が成り立ちます。
そのほかの社員=株主
業務執行社員=取締役
代表社員=代表取締役
1人起業の場合は、自ら出資して、そのまま業務執行社員・代表社員(株式会社であれば取締役・代表取締役)に就任します。個人事業主の法人成りも、通常は1人起業と同様、個人事業主が出資し、そのまま業務執行社員・代表社員に就任するケースがほとんどです。
1人起業の場合、役員構成が問題になることはありませんが、複数人で起業する場合は、誰が役員に就任するか議論する必要があります。最終的な意思決定は誰がするのか、報酬はどうするのかも含め、役員構成を決めましょう。
なお、社長や専務、CEOなど経営陣の肩書は法律で決められた役員の呼称ではないため、社内で自由に決定できます。ただし、外部の人が混乱するのを防ぐために、業務執行社員などに登記されていない人に対し代表者を連想させる呼称を用いるのは、取引の安全のためにも控えなければなりません。
まとめ
合同会社と株式会社の違いは、設立の費用や、組織構成の違い、知名度などさまざまです。合同会社で設立した後に、株式会社に組織を変更することも可能ですが、その場合も費用がかかります。合同会社を選択する場合は、費用面だけでなく、営業面なども考慮した上で、なぜ合同会社にするのか納得してから設立手続きにのぞみましょう。
執筆者プロフィール:
中野 裕哲(税理士・特定社会保険労務士・行政書士起業コンサルタント(R)・CFP(R))
V-Spiritsグループ代表。年間約300件の無料相談を受ける。経済産業省後援DREAM GATEで10年連続相談件数No.1。「相談件数№1のプロが教える 失敗しない起業の法則55」ほか、起業に関する著書多数。
上記内容は、執筆者の見解であり、住信SBIネット銀行の見解を示しているものではございません。