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起業前に知っておくべき「資本金」の仕組みを5分で解説
- 公開日:2021年12月 6日

会社を設立したいと考えている人の中には、資本金をいくらにしたらいいか迷うこともあると思います。過去には株式会社の設立に最低1,000万円が必要でしたが、2006年の会社法成立に伴い最低資本金制度は撤廃されました。理論上は資本金0円でも設立が可能です。ここでは、資本金について説明するとともに、資本金をいくらにしたらいいか解説していきます。
資本金とは?
資本金とは、会社を設立して事業を始める際に、払込みされた資金のことです。1602年に設立されたオランダの「東インド会社」が最初の株式会社といわれています。当時、航海者は航海に出るために出資者を募り、持ち帰った貿易品で利益を上げ、その利益を出資者に分配していました。これを会社組織の形態にしたのがオランダの東インド会社です。
つまり、資本金とはこれから起業という航海に出るために必要な資金と考えられます。スタートが少なくても問題ありませんが、航海を続けるためには、ある程度の金額を確保しておくべきです。
ちなみに、設立後に銀行から受けた融資は資本金にできません。銀行からの融資は返済が必要なお金で、返済をしなくてもいい資本金とは性格が異なるからです。
資本金の大きさから分かること
資本金の大きさはどのような意味を持つのでしょう。例えば、あなたが取引先を選定するとき、資本金1円、100万円、1,000万円の3社があったら、どの会社と取引がしたいでしょうか。資本金1円の会社より1,000万円の会社のほうが安心できるでしょう。つまり、資本金が大きいと信用につながることもあります。
また起業時には創業者自ら出資することが多いです。資本金の多寡は創業者の覚悟、意気込みとも捉えられる可能性があります。
資本金はいくらにすればいいのか?
資本金の額は、一般的に、設立費用+数ヵ月分の運転資金が目安といわれています。ただし、許認可が必要なビジネスなどでは、必要な資本金が定められています(下記「資本金を決めるときのポイント」参照)。現存の会社がどの程度の資本金を有しているかの調査がありますので、参考に見てみましょう。2012年と2016年に総務省と経済産業省が「経済センサス-活動調査」を発表しており、全国の法人を資本金別にまとめています。(※最新のものは現在調査がおこなわれています。)

出典:
総務省統計局|平成28年経済センサス‐活動調査
総務省統計局|平成24年経済センサス‐活動調査
過去には最低資本金の規程があったため、有限会社であれば300万円以上、株式会社であれば1,000万円以上の資本金が必要でした。そのため、ボリュームゾーンは「300万円以上500万円未満」「1,000万円以上3,000万円未満」の2箇所です。ただし、2回の調査を比較すると、全体が10%程度減少、ボリュームゾーンが減少傾向にあります。一方で増加しているのが「300万円未満」「500万円以上1,000万円未満」などボリュームゾーンよりも下のゾーンです。
3,000万円以上のところでも会社数が増えていますが、最初から大きな資本金でスタートできる人は多くありません。株式会社を新規で設立する場合、まずは300万円未満の少ない資本金で起業するか、500万円以上の資本金で本格的に事業展開を考える人が多いと推測できます。
資本金1円でも起業できるのか?
最低資本金制度が撤廃された現状では、払込みされた出資金を資本金に組入れない方法を使えば、理論上、資本金は1円どころか0円でも株式会社を設立できます。ただし会社を設立するためには設立費用が必要ですし、会社として活動するには運転資金も必要です。
また、取引先との関係もあります。先述した信用度もあり、通常は資本金0円や1円の会社と取引をしたいと思わないでしょう。形式上は資本金が0円や1円でも株式会社を設立することが可能ではあるものの、実際にビジネスをすることを考えれば一定の金額は資本金として必要です。
資本準備金と資本金の違い
資本金と似た言葉に「資本準備金」があります。資本準備金とは、出資した額のうち、資本金として組入れなかった額のことです。原則、出資金は資本金として計上しますが、会社法上、出資金のうち2分の1以下を資本金ではなく「資本準備金」として計上することが認められています。

ただし、資本準備金の計上は、設立当初はあまり必要ではありません。増資であれば資本準備金に組入れる選択肢もありますが、設立当初は資本金をできるだけ大きくするほうが信用度は高まるため、わざわざ小さく見せる必要はないでしょう。
資本金は払込みが必要
資本金の額が決まったら資本金の払込みが必要です。発起設立(発起人がすべての株式を引受けて会社を設立する方法)の場合は、定款の認証を受けた後、各発起人がそれぞれの出資額を代表発起人の指定する金融機関の口座に振込みます。
ちなみに、発起人が1人で、発起人が代表取締役になるケースでも、振込人の名前が分かるよう、自身の金融機関の口座に振込みをおこなわなくてはなりません。口座残高があればいいというものではないので気をつけましょう。
なお、募集設立(発起人以外にも株を引受けてもらって会社を設立する方法)の場合には金融機関から払込金保管証明書を発行してもらう必要がありますので、別手続きになります。
次に、最初に資本金として払込んだ資金を使っていいのか考えてみましょう。資本金として払込みされた額は貸借対照表上の現預金となり、費用の支払いや設備投資資金として使用できます。
例えば資本金300万円で会社を設立します(①)。その後、事業に必要な機械を100万円で購入したとしましょう。貸借対照表上では、現預金の300万円が100万円の支払いにより200万円となり、機械設備が100万円増えることになります(②)。
それでは、経費支払いで100万円を支出した場合はどうでしょう。貸借対照表上、現預金が減少する一方、会社としては収益がマイナスとなるために、利益剰余金がマイナス100万円となります(③)。
以上のように、出資金の払込みにより現預金として計上された部分は会社のお金としては自由に使えます。ただし、お金を使うと貸借対照表や損益計算書に影響を与えますので、会社を作る際には基本的な簿記を理解しておきましょう。

資本金を決めるときに気をつけるべきポイント
資本金は、設立費用+数ヵ月分の運転資金が目安ではありますが、許認可や税制などで、資本金の額に制限や優遇を設けられている場合があります。
1.許認可ビジネス
旅行業や建設業、人材紹介・派遣業などでは、許認可申請をおこなう際に、最低資本金もしくは基準財産額のレベルを設定しているものがあります。それぞれ要件が細かく決められているので内容をよく確認しましょう。

新規に設立して、すぐに許認可の申請に移る場合には、少なくとも資本金が上記のレベル以上でなければなりません。
2.税制の優遇
税金面では資本金の大きくない中小企業であれば優遇されることがあるため、資本金決定の際には注意しておきたいポイントです。まず消費税ですが、資本金が1,000万円未満の会社であれば、2年間の納付免除を受けられます。許認可などで1,000万円以上の資本金が必要な場合を除けば、消費税面の優遇を受けるために、1,000万円未満の資本金で会社を設立する選択肢もあるでしょう。
法人税の優遇措置もチェックしておきたいポイントです。現在法人税の税率は23.2%ですが、資本金1億円以下の会社は特例により年800万円以下の所得に対しては税率15%、年800万円超の部分では本則と同じ23.2%の税率が適用されます。設立当初から1億円の資本金で始められるところは限られますが、増資を検討する際には覚えておきたい部分です。
増資と減資とは?
設立後に資本金を増やすことを増資、資本金を減らすことを減資といいます。一般的に増資は、企業が成長する中で事業拡張などの資金調達に使われるなどポジティブな要因です。一方、減資は赤字続きの企業が累積した損失をなくすためなど、ネガティブな要因と捉えられます。ここでは起業後の事業拡張を理由とした増資について解説します。
増資のメリット
- 返済の必要のない資金が調達できる
- 財務体質が強化される
- 対外的な信用が向上する
1.返済の必要のない資金が調達できる
資金調達の選択肢の1つとして銀行からの融資があります。しかし、銀行からの融資には金利を支払う必要がある上、元本を返済しなければなりません。一方、増資は融資と違い金利を支払う必要がありませんし、払込みされた資金に対して株式を発行して渡すのみです。返済の必要はありません。
2.財務体質が強化される
増資を財務諸表の動きで見てみると、貸借対照表上の株主資本の部分が増え、資産では現預金が増えることになります。会社の資金繰りを計る指標に流動比率があります。流動比率は[流動資産÷流動負債×100]で表されるもので、1年以内に返済する負債をどの程度流動性のある資金で保有しているか分かる指標です。一般的には流動比率が150%以上(1年以内に支払う金額の1.5倍以上の現預金または現金に近いものを保有している)であることが望ましいとされています。
例えば流動資産500万円、流動負債500万円を持つ会社で考えてみます。このとき、流動比率は[500万円÷500万円×100=100%]です。仮に300万円増資すると、現預金が300万円増え流動資産は800万円、流動負債には変化がないので流動比率は[800万円÷500万円×100=160%]へ改善します。
以上のように、増資をおこなうと流動比率など会社の健全性を表す指標が改善する効果があります。
3.対外的な信用が向上する
資本金の大きさは取引相手などに安心感を与えます。前にも述べたように、資本金が大きければ取引相手に安心感を与えます。また増資は会社が成長したときにおこなわれることが多いので、増資をおこなうとビジネスがうまくおこなわれているとのイメージを与えられるので対外的な信用が向上します。
増資のデメリット
- 株主の構成比率に変化が出ることがある
- 配当金の負担が増える
- 税金の優遇が受けられなくなる可能性がある
1.株主の構成比率に変化が出ることがある
増資をおこなうと新たに株を発行することになり、株主の構成比率に変化が出ることがあります。構成比率の変化で注意したいのが各株主の権限です。例えば、増資を引受けた株主が発行済み株式数の3%以上を持つと帳簿閲覧請求権が行使できるようになります。保有する株数が増えるほど株主の権利も大きくなりますので、増資の際には株主構成の変化に気をつけましょう。
2.配当金の負担が増える
増資をしたとき1株あたりの配当を据置くと、株数が増えた分、配当金の支払負担が大きくなります。会社の現預金を減少させることになるので注意が必要です。
3.税金の優遇が受けられなくなる可能性がある
資本金が1億円を超えると法人税の優遇が受けられなくなります。資本金が1億円超になると所得の大きさに関係なく税率が一律23.2%になるためです。増資をする際には、資本準備金も活用できますので、税制の優遇を受けたいときは資本金の額を上手に調整してください。
まとめ
資本金は新たな事業を開始するときの準備金ですので、通常は設立費用+数ヵ月分の運転資金と考えてください。ただし低すぎる資本金は会社の信用度が下がる場合もあります。また、資本金が一定額に達していないと必要な許認可を受けられないこともありますので、設立時の資本金の額には注意しましょう。なお、増資をおこなう際には登記変更などのコストがかかります。資本金が財務諸表などに与える影響や税金に与える影響なども勘案して増資を決定するようにしましょう。
執筆者プロフィール:
青野 泰弘(ファイナンシャルプランナー・行政書士)
青野行政書士事務所 代表。大学卒業後、数社の証券会社で債券の引受けやデリバティブ商品の組成などに従事。2012年にFPおよび行政書士として独立。相続、遺言や海外投資などの分野に強みを持つ。お金の悩みはたくさんあるが、身近な人には相談しにくいもの。また金融の話には難しい言葉があり、敬遠する人も多いかもしれない。金融を分かりやすい言葉で多くの人に理解してもらえるように説明している。
上記内容は、執筆者の見解であり、住信SBIネット銀行の見解を示しているものではございません。