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「法人化(法人成り)」とは? 目的やメリット、手続きを解説
- 公開日:2021年12月 6日

事業を起こすと決めた際にまず悩むのは、会社としてスタートするか、それとも個人事業としてスタートするかでしょう。個人事業としてスタートしたとして、しばらく経つと、このまま個人事業で続けるべきか、それとも法人化するべきか悩む人も多いでしょう。法人化とはどのようなもので、メリット・デメリットは何か、どのタイミングで法人化をすべきか、法人化にはどのような手続きが必要になるかを解説します。
なぜ法人化するのか?
法人化とは、個人事業の形態を法人という組織に変更することです。なお、法人化は「法人成り」ともいいます。一般的には株式会社へ変更することをいい、会社を設立することを指します。
法人化の目的、メリット
法人化の一般的な目的は、「税制上のメリットを得たい」「事業を拡大したい」「金融機関からの融資を受けやすくしたい」「取引候補先が法人としか取引をおこなわない」など、さまざまです。具体的な法人化のメリットは以下のとおりです。
- 取引先、金融機関、投資家への信用力が増大する
- 新たに消費税が最大2期免除になる
- 経営者も給与所得控除が利用できる
- 家族に給与が支払える
- 経営者や家族への退職金の支払いが可能になる
- 欠損金の繰越が10年間可能となる
- 決算期を自由に決められる
- 事業承継、相続対策が容易になる
法人化のデメリット
一方で、以下のように法人化によるデメリットも存在します。
- 登記が必要で設立費用がかかる
- 会社のお金を経営者が個人的なものに使えない
- 維持費用、事務処理など負担が増える
- 交際費の損金算入に一部制限がある
- 社会保険の強制加入対象となる
- 法人住民税の均等割の負担が発生する
個人事業主はいつ法人化すればよい?
法人化のタイミングはさまざまです。
たとえば、取引規模拡大で取引先や金融機関からの打診がある場合、経営の多角化や規模拡大など経営上必要となる場合が検討のタイミングとなります。ほかにも、法人でなければ取引できない事業者との取引を検討するタイミングで法人化することもあるでしょう。
また、税制上のメリットを得ることを目的とした法人化もあります。消費税の免税が目的の場合、法人化のタイミングは所得税などの税額が法人税などの税額を超えたときが目安です。
所得税の税率は所得金額に応じて5%~45%、住民税が一律10%となります。
法人税等の税率(大阪市の法人の場合)は所得金額に応じておおよそ21.36%~33.58%です。これにより境目となる部分についてそれぞれの税額を計算すると下記表のようになります。

個人事業の利益600万円を境目にその負担が逆転しますので、600万円を超える前に検討をおすすめします。ただし、実際の有利不利は必ずしも目安どおりとはなりません。それぞれの経営状況により異なりますので、検討の際は自身がどのような経営判断により会社運営をおこなうか十分検討しながら進めてください。
法人化の具体的な手続き
法人化の手続きを、以下の順に解説します。
- 会社概要の決定
- 定款作成
- 定款認証
- 登記申請
- 税務署への届出
会社概要の決定
法人化による会社の設立は、一から会社を設立するより準備は楽です。
通常、会社設立時には、商号や会社の目的(この会社はどのような事業をおこなうのか)などを決める必要があります。一方の法人化であれば、これまで個人事業で使用していた屋号や、今までおこなっていた事業をそのまま継続することが大半です。
会社名や会社の目的など設立に際して決める内容は、後日変更できますが、その都度登記と登記の費用が必要であるため、長期的なビジョンを持って定款を作成することをおすすめします。
定款作成
法人には、さまざまな組織体があります。有名なものとして株式会社、最近増えているのは合同会社です。それぞれ定款作成で異なる部分がありますが、株式会社を例に定款作成の項目や注意点を見ていきましょう。
なお、定款で定める事項には、「絶対的記載事項」として必ず定めなければならない項目、「相対的記載事項」として登記をおこなうか否かを当事者の判断により決められる項目(定めた場合には効力を生じるもの)があります。定款に記載すべき事項と登記事項は異なる場合があるなど、状況により作成する内容の検討が必要ですので、司法書士などの専門家と相談の上検討するとよいでしょう。
詳細はこちらをご確認ください。
定款認証
株式会社の設立に際しては、作成した定款について公証人の認証を受ける必要があります。定款の認証は、会社の本店の所在地を管轄する法務局または地方法務局に所属する公証人しかおこなえません。定款認証の際には、
- 作成した定款3通(公証役場保管用・法務局提出用・会社保管用)
- 発起人の印鑑登録証明書
- 手数料(現金約5万円)
- 収入印紙(4万円分)※電子定款の場合は不要
が必要です。
登記申請
定款認証後、法人設立登記申請をおこないます。登記申請は、申請書および必要書類を作成し、法務局に提出する手続きです。提出後、登記所で審査がおこなわれ、不備などが無ければ完了となります。法人の設立年月日は登記申請書が登記所(法務局)で受付された日です。
登記必要書類、登記申請書の作成
一般的な法人設立登記申請には下記の書類などが必要です。
- 株式会社設立登記申請書
- 定款 1通
- 発起人の同意書 各人1通
- 設立時代表取締役を選定したことを証する書面 1通
- 設立時取締役、設立時代表取締役(および設立時監査役)の就任承諾書 各人1通
- 印鑑証明書 各人1通
- 本人確認証明書 印鑑証明書の添付をしない役員分につき各人1通
- 設立時取締役(および設立時監査役)の調査報告書およびその附属書類 1通(現物出資など会社法第28条各号の規定の適用を受ける場合に限る)
- 払込みを証する書面 1通
- 資本金の額の計上に関する設立時代表取締役の証明書 1通(金銭のみを資本金とする場合には不要)
- 印鑑(改印)届出書 1通
- 登録免許税(資本金の額の1000分の7の額と15万円とのいずれか高いほうの額)
- 委任状(登記を司法書士などの専門家へ委託する場合に必要) 1通
登記申請書の作成については、法務局のホームページから申請書を取得できます。
作成をする際の注意点は、以下のとおりです。
- 登録免許税を収入印紙で納付する場合には、収入印紙を収入印紙貼付台紙に添付しますが、収入印紙に割印はおこなわないようにします。割印をした収入印紙は使用できません。
- 申請書が2枚以上にわたる場合には、申請書に押印した人が各ページの綴り目に契印をおこないます。
- 申請書の添付書類は原則として原本の添付が必要です。原本の返還が必要な書類については、原本をコピーし、申請書に押印をした人が「原本に相違ありません。」と記載し、原本とコピーを提出します。コピーが2枚以上にわたる場合には、ホチキス留めでまとめましょう。
法務局へ登記申請
登記申請は登記申請書と必要書類を、会社・法人の本店または主たる事務所を管轄する登記所(法務局)の窓口へ提出して完了となります。提出は窓口への直接の提出のほか、郵送による方法も可能です。郵送の場合は念のため、到達を確認することができる書留などの方法により提出することをおすすめします。
税務署への届出
個人事業を法人化する場合、個人事業は廃業します。法人の設立が終われば、以下の書類の作成と税務署への届出が必要です。
- 個人事業の開業届出・廃業届出手続
- 所得税の青色申告の取りやめ手続き(青色事業者の場合)
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出(給与の支払いをおこなっていた場合)
- 事業廃止届出手続(消費税の課税事業者であった場合)
また、廃業した年についても翌年3月15日までに確定申告書の提出および納税が必要ですので忘れないよう注意してください。
法人化後、無事登記申請が完了すると、法務局で履歴事項全部証明書(会社の登記簿謄本)を取得できるようになります。履歴事項全部証明書を取得して、会社の所在地を管轄する税務署、都道府県税事務所、市町村役場へ開業届を提出しなければなりません。
一般的には税務署へ以下の書類を提出し、必要に応じてそのほかの届出なども作成し提出します。
- 内国普通法人等の設立届
- 青色申告書の承認申請(青色事業者を選択する場合)
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出(給与の支払いをおこなう場合)
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請(納特の適用を受ける場合)
また都道府県税事務所、市町村役場へはそれぞれに開業届を提出することとなります。
各種届出についてはそれぞれの状況で異なりますし、消費税関係については金額も大きくなりますので、専門家と相談の上、提出する書類を確認してください。
また、それぞれの届出については提出期限がありますので下記期限を確認して、提出期限までに提出を済ませましょう。特に6の青色申告書の承認申請には期限を過ぎるとその事業年度は、青色申告ができなくなりますので注意してください。

まとめ
個人事業の法人化はイメージとしては、会社という箱を設立し、個人事業という箱から移し替えることです。会社設立のプロセスはこの記事で取り上げたとおりですが、この後に個人事業を法人という箱へ入れ替える(引継ぐ)作業が必要となります。
入れ替えの作業には専門的な知識が必要です。法人化を検討する際には税理士などの専門家へ相談の上、おこなうことをおすすめします。
執筆者プロフィール:
冨川 和將(税理士)
起業・設立のサポートから財務体質の改善までを得意としており、融資のサポート、資金繰り計画のサポート、経営計画作成・運用のサポート、経営者のライフプランのサポートも積極的におこなっている。さらに相続税の申告や法人・個人の税務調査対応、税務訴訟における税理士補佐人としてサポートと幅広く経営者の参謀役として業務をおこなっている。
上記内容は、執筆者の見解であり、住信SBIネット銀行の見解を示しているものではございません。