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株式会社を設立?個人事業主のままがいい?株式会社のメリット・流れを解説
- 公開日:2021年12月16日

個人事業主としてスタートした方も、ある程度の利益が得られるようになると、株式会社や合同会社を設立することを検討するでしょう。では、株式会社を設立するとどんなメリットがあるのでしょうか?本記事では、個人事業主が株式会社を設立するメリット・デメリット、設立手続きの流れについて解説します。
株式会社とは?
株式会社とは、株式を発行して資金を調達し、その資金を元手に事業運営をおこなっていく会社形態です。株主は出資額を超える責任を負うことはありません(間接有限責任)。
株式会社の所有者は株主ですが、経営者は株主以外から選ぶことができ、所有と経営を分離させることが可能です。
株式会社を設立するメリット
次に、個人事業主が株式会社を設立するメリットについて説明します。
株式会社を設立するメリットは大きく以下の3つがあります。
- 社会的な信用が増す
- 株式を発行して資金調達ができる
- 税制上のメリットがある
社会的な信用が増す
一般的に、個人事業主よりも株式会社のほうが信用度は高いです。
株式会社の場合、商号、目的、所在地、資本金、役員などの重要事項が商業登記簿に掲載されており、第三者が確認できるようになっています。個人事業は登記されないので、この点では株式会社のほうが信用できるといえるでしょう。
また、株式会社には資本金もあります。資本金は必ずしも企業の信用度を表すものとはいえませんが、一般的には資本金額が高いと信用されやすくなります。
取引関係においても、株式会社のほうが安心されやすいことがあり、個人事業主とは取引をしないという企業も存在します。業種にもよりますが、株式会社となることで取引を拡大しやすくなる場合もあるでしょう。
株式を発行して資金調達ができる
株式会社は、株式発行による資金調達ができます。株式発行による資金調達のメリットは、返済する義務がないことです。そのため、担保や保証人も不要です。さらに、調達した資金は自由に使うことができます。
ただし、株式会社の場合、株式を多く保有するようになると経営に影響力をもつようになります。会社の重要事項を自身で決定できるようにしておきたいなら、株式総会の特別決議に必要な2/3以上の議決権は確保しておくなど、一定の注意は必要です。
税制上のメリットがある
節税を狙って株式会社を設立する個人事業主も多いです。
給与所得控除を受けることができる
個人事業主の場合は青色申告特別控除(65万円)を受けられますが、給与所得者は給与所得控除(最大195万円)を受けることができます。所得が多いなら、給与所得のほうが税金は安くなります。

例えば、役員報酬として年収500万円を受け取る場合、給与所得控除は144万円となります。年収1,000万の場合は、給与所得控除は195万円です。
所得税率と法人税率の差による節税効果
個人事業の場合は事業利益に対して所得税がかかります。所得税は累進課税のため、事業利益が増えると税率も高くなり、所得が4,000万円を超えると45%にもなります。
一方で、株式会社の場合は、利益のすべてが役員報酬になるわけではありません。役員報酬と会社の利益に分けることができます。会社の利益に対しては法人税がかかりますが、法人税は800万円以下の部分は15%、800万円超の部分は23.2%です。
消費税の免税効果
消費税は、設立した会社の資本金が1,000万円未満であれば、最大2年間は免税事業者となることができます。
ただし、第1期の半年間で売上および給与が1,000万円を超える場合は、2年目から課税事業者になります。
また、2023年10月からインボイス制度が始まるため、企業間取引をしている場合には免税事業者であることがメリットにならない可能性もあります。
損失の繰越が10年間になる
個人事業の場合は青色申告書を提出することで損失を最大3年間繰越せますが、法人の場合は最大10年間繰越すことができるようになります。
株式会社を設立するデメリット
株式会社の設立にはデメリットもあります。設立時には手間やコストがかかりますし、個人事業のときよりも必要な事務が増えます。
設立の手間やコストがかかる
株式会社の設立には、電子定款を作成して印紙代を節約したとしても、20万円超の費用が発生します。
後述するように、株式会社の設立にはいくつかの手続きが必要なので、手間がかかります。専門家に依頼することで手間を減らすことはできますが、その分費用も増えることになります。

社会保険の加入が必須
株式会社を設立すると、原則として社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入が必要です。国民年金保険料は一定でしたが、厚生年金保険料は収入に応じて発生するため、ほとんどの場合は保険料が増加します。ただし、保険料は会社と本人が半分ずつ負担しますし、会社が負担した分は経費になります。
年金の額が増えるので一概にデメリットとはいえませんが、従業員がいる場合には、従業員の保険料の半分も負担しなければならないので、会社の負担が増えることになります。
税金・社会保険の申告や手続きが増える
個人事業主と比べて、法人のほうが税金・社会保険関係の事務が増えます。
株式会社の場合は、法人税関係の手続きや、源泉所得税関係の手続きが発生します。個人事業と比べるとやることが多くなり、税理士・公認会計士に依頼している会社も多いです。
また、上述のとおり社会保険への加入が必須になりますし、従業員を雇うときは労働保険(労災保険・雇用保険)の加入も必要となりますので、労働保険・社会保険関係の手続きが発生します。
そのほか、会社組織にかかわる手続きも発生することがあり、個人事業主の場合と比べると事務コストが大きく増えます。
株主と会社経営の関係
株式会社の大きな特徴として、所有と経営の分離があります。株式会社の所有者は株主ですが、株主は株主総会で取締役を任命し、経営を委任します。このように、株式会社では所有と経営の分離を原則としています。もちろん、株主が取締役に就任することも可能です。
合同会社との違い
合同会社では、株式会社のように所有と経営は分離していません。出資者は同時に経営者になります。
したがって、株式会社のように株式発行による資金調達はできませんし、上場もできません。株式会社に比べると認知度も低いため、信用度も下がることがあります。
一方で、所有者と経営者が同一なので、意思決定は簡単になり、必要な手続きも減ります。たとえば、役員の任命手続きをしなくてもいいですし、役員の任期もありません。株主がいないので決算公告も必要ありません。
設立費用も、合同会社の場合は定款認証が不要で、登録免許税も安くなるため、株式会社よりも設立費用が安く済みます。

株式会社設立の流れ
株式会社は、設立登記をすることで設立したと公言できます。ここでは、設立登記までの一般的な流れについて説明します。
発起人の決定
株式会社を設立する人のことを発起人といいます。法的には、定款に発起人として署名または記名押印をした人が発起人となります。また、発起人は出資者である必要があるので、1株以上の出資が必要です。
基本事項の決定
会社の商号、目的、事業内容、本店所在地、資本金額、設置する機関、決算期などの基本事項を決定します。
また、商号が決まった段階で、印鑑(実印・銀行印・角印)の発注もしておくといいでしょう。
定款の作成
決定した基本事項をもとに、定款を作成します。
定款の作成・認証については、こちらの記事で解説しています。
定款の認証
定款を作成したら、公証人の認証を受けます。定款の認証は、本店の所在地を置く都道府県にある公証役場でおこないます(北海道は広いので、地域によって管轄が決まっています)。
認証を受けるにあたっては、事前に公証役場に連絡し、定款に問題がないかをチェックしてもらいます。問題がないことを確認してから、定款の認証を受けることができます。
登記申請
定款の認証が終わったら、出資金を払込み、登記申請を実施します。登記申請は本店所在地を管轄する法務局でおこないます。
設立登記については、こちらの記事で解説しています。
まとめ

株式会社を設立すると、個人事業のときよりも事務負担や費用が増えることはありますが、社会的信用度の向上や事業拡大、税制上のメリットを享受することが期待できます。さらに事業拡大をしたい方や、事業利益が増えてきた方は、株式会社や合同会社の設立を検討してみてはいかがでしょうか。
執筆者プロフィール:
高橋 圭佑(行政書士・社会保険労務士)
ノータス経営労務事務所代表。1986年生まれ北海道旭川市出身。立命館大学法学部卒。社会保険労務士・行政書士として、会社設立、許認可申請、社会保険手続、就業規則作成、給与計算、人事労務・法務コンサルティングなど、主に中小企業の労務・法務の支援業務に携わっている。
上記内容は、執筆者の見解であり、住信SBIネット銀行の見解を示しているものではございません。