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電子契約書とは?種類、仕組み、締結フローを解説
- 公開日:2021年12月16日

近年、電子契約書の普及が進んでいます。大手企業での電子契約書の利用も進んでおり、一昔前と比べると信頼性が高まっています。昨年はリモートワークが増加したことにより、電子契約書の普及が加速しました。本記事では、そんな電子契約書のメリット・デメリットや、書面契約との違い、締結フローについて解説します。
電子契約と書面契約の違い
契約書を作成・締結するとき、従来は書面契約が普通でしたが、現在は電子契約も増えています。
民法では、契約の方式は原則自由とされており、口約束であっても契約そのものは有効です。しかし、トラブルが発生したときに契約の存在や内容を証明するためには、証拠として契約書が必要となります。
電子契約でも証拠として有効なのかが問題となりますが、電子契約は法律上「準文書(図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないもの)」として取扱われ、書面契約と同様に証拠として認められます。
ただし、書面契約が証拠として認められるためには署名または押印が必要とされるように、電子契約が証拠として認められるには電子署名やタイムスタンプが必要です。詳細は「電子契約の種類」で説明します。
電子契約書のメリット
電子契約書のメリットは、大きく分けて4つあります。
- 契約業務の効率化
- リモートワークの推進
- ペーパレス化
- 印紙税の削減
契約業務の効率化
電子契約書を活用すると、製本・押印・封書作成・投函といった作業や、契約書を受け取った際の押印・返送などの作業を削減することができます。
また、電子データであれば時間や場所の制約がなく確認することができ、保管中も検索が容易です。
リモートワークの推進
電子契約書であればリモートワークでも契約業務を実施できます。押印のために出社が必要だからリモートワークができない人もいますが、電子契約書を活用すると押印のために出社する必要がなくなるため、リモートワーク推進に役立ちます。
ペーパレス化
電子契約書は電子データにより作成・締結・保管するので、紙の印刷や保管スペースが減ります。それにより、印刷コストの削減、保管スペースの節約が期待できます。
印紙税の削減
電子契約書には印紙税がかからないというメリットがあります。契約金額や契約件数が多くなると印紙税も高くなるため、電子契約書にするメリットも大きくなります。
電子契約書のデメリット
反対に電子契約書のデメリットは、主に以下の3つです。
- 取引先の協力が必要
- 電子契約できない書類もある
- (電子契約サービスを使う場合)サービス利用料がかかる
取引先の協力が必要
電子契約書を利用するには、取引先の理解・協力が必要です。書面契約にこだわり電子契約書には否定的な会社もあれば、ITの活用に不慣れで電子契約書に対応できないという会社もあるでしょう。
取引先の負担が少なくて済むような電子契約サービスもあります。印紙税の削減などのメリットを説明すると協力を得られることもありますし、実際に電子契約書を活用してみると書面よりも楽だと感じる方も多いです。
電子契約できない書類もある
法律で書面作成や書面交付が必要とされているものは、電子契約ができません。現時点(2021年9月時点)で電子契約ができない書類の代表的なものは以下のとおりです。
- 定期借地契約(借地借家法第22条)※
- 定期建物賃貸借契約(借地借家法38条1項)※
- 農地等の賃貸借契約(農地法第21条)
- 宅地建物売買等の媒介契約書(宅建業法第34条の2)※
- 宅地建物売買等契約における重要事項説明時に交付する書面(宅建業法35条1項)※
- 宅地建物売買等契約締結時に交付する契約書等の書面(宅建業法第37条1項)※
- 訪問販売等において交付する書面(特定商取引法第4条など)
ただし、2021年9月にデジタル改革関連法が施行され、上記のうち※印のついているものについては、遅くとも2022年5月19日までには電子契約ができるようになる予定です。
(電子契約サービスを使う場合)サービス利用料がかかる
電子契約を締結するとき、一般的には電子契約サービスを利用することが多いです。電子契約サービスを利用するに利用料が発生します。無料で利用できるプランが用意されていることもありますが、契約件数や機能に制限があります。
しかし、メリットの部分で説明したとおり、電子契約書では印刷コストや印紙税、契約業務にかかる手間を削減できます。電子契約サービスを利用する場合、通常は契約件数が多くなるほど費用対効果は高くなります。
電子契約の締結フロー
電子契約の締結フローも、書面契約と同じように。書面契約と異なるのは、文書のやり取りがすべて電子文書にておこなわれることと、印鑑の代わりに電子署名が用いられることです。次の表は、書面契約と電子契約の一般的な契約締結フローを比較したものです。

電子契約書の作り方
電子契約であっても、書面契約と内容は変わりません。書面契約と同様に、Wordなどで契約書データを作成します。電子契約サービスによっては、クラウド上で契約書を作成できるものもあります。
Wordなどで作成した契約書はPDFとして保存し、電子契約サービスにアップロードします。アップロードされた電子契約書を当事者双方が確認し、電子署名とタイムスタンプを付与することで、電子契約が完了します。
また、多くの電子契約サービスにはテンプレート機能があります。あらかじめテンプレートを作成・登録し、契約書の作成時に利用できる機能です。契約書の作成時に必要に応じて部分的に編集するだけで、簡単に契約書が作成できるようになります。契約業務効率化につながるので、定型的な契約にはテンプレートの活用をおすすめします。
電子契約が書面契約と異なるのは、署名または押印が不要な代わりに、電子署名とタイムスタンプが必要な点です。
電子契約の種類
書面契約のときは押印により本人性(本人が契約をしたということ)を担保しますが、電子契約では電子署名により本人性を担保します。電子署名は、書面契約における印鑑のようなものです。
電子契約は電子署名の方法によって「当事者電子署名方式」と「立会人電子署名方式」の2つの種類に分類されます。
また、電子署名により本人性を担保するだけではなく、「タイムスタンプ」により契約成立の日時を証明する必要もあります。
当事者電子署名方式
当事者電子署名方式は、契約の当事者双方が電子証明書(詳細は後述)の発行を受け、これにもとづいて電子契約書に電子署名をおこないます。印鑑証明を受けた実印で押印するのと同じような方法で、信頼性も同程度にあります。当事者電子署名方式であれば電子署名法第3条により「真正に契約が成立した」と推定されます。
後述する立会人電子署名方式に比べると信頼性の高い方式ですが、当事者双方が事前に電子証明書の発行を受けている必要があり、手間やコストがかかります。
立会人電子署名方式
当事者電子署名方式では当事者双方が電子署名をしますが、立会人電子署名方式では電子契約サービス事業者が立会人となり、契約当事者双方の身元確認や契約意思を確認して、電子契約サービス事業者が署名をおこないます。
この方法では、契約当事者が電子証明書の発行を受けなくてもよく、コストや手間が少なくなるというメリットがあります。特に、取引先に負担をかけずに電子契約を締結したいときには、立会人電子署名方式のほうが抵抗は少ないでしょう。
政府の見解では、立会人電子署名方式であっても、一定の条件を満たしていれば電子署名法第3条による「真正に契約が成立した」という推定が及ぶとされています。
電子証明書とは
電子証明書は、信頼できる第三者(認証局)により発行され、電子署名した者が本人であることを証明するものです。書面契約における印鑑証明書に対応するものといえます。
印鑑証明書は市町村が発行し、印影が本人のものであることを証明します。これに対して、電子証明書は認証局が発行し、電子署名が本人のものであることを証明します。
上記の当事者電子署名方式では、契約当事者の電子証明書を使用して電子署名をおこなうことで、契約を締結したのが契約者本人であること証明します。立会人電子署名方式では契約当事者の電子証明書は使いません。
電子証明書を取得する際には、認証局による本人確認や手数料の支払いが必要です。そのほか、有効期間の更新時に簡単な手続きや手数料が発生します。
タイムスタンプとは
電子契約では、電子署名だけではなく、タイムスタンプも必要です。
電子署名では、契約当事者が誰かを証明することはできますが、いつ契約が成立したのかを証明することはできません。電子契約の完全性を証明するためにはタイムスタンプにより契約が成立した日時を証明することが必要です。
タイムスタンプは、タイムスタンプの押された日時に電子契約が存在していたことを証明(存在証明)し、その日時以降にデータが改ざんされていないことを証明(非改ざん証明)します。
まとめ
電子契約書は、契約業務の効率化、リモートワークの推進、印刷コストや印紙税の削減などの効果を期待できます。法的にも有効性が認められており、政府にも電子契約書を認めていこうという動きがみられます。最近の情勢の影響でリモートワークを実施したことをきっかけにして電子契約書を導入する企業もありましたが、今後も電子契約書の利用は増えていくでしょう。業務効率化のためにも、電子契約書を検討してみてはいかがでしょうか。
執筆者プロフィール:
高橋 圭佑(行政書士・社会保険労務士)
ノータス経営労務事務所代表。1986年生まれ北海道旭川市出身。立命館大学法学部卒。社会保険労務士・行政書士として、会社設立、許認可申請、社会保険手続、就業規則作成、給与計算、人事労務・法務コンサルティングなど、主に中小企業の労務・法務の支援業務に携わっている。
上記内容は、執筆者の見解であり、住信SBIネット銀行の見解を示しているものではございません。