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法人・個人事業主が知っておくべき消費税の基礎知識
- 公開日:2021年12月16日

日本で暮らしている人にとって消費税は、最も身近な税金です。しかし、消費者として支払っている消費税になじみがあっても、事業者として消費税を徴収し、納税するとなるとわからないことばかりでしょう。消費税の徴収と納税の制度は一見簡単そうですが、実は奥が深く、実際に納税義務者になると悩むことがとても多い税金です。今回は、この消費税の計算と申告についての基礎を説明します。
消費税とは
消費税は間接税といって、担税者(税金を負担する者)と納税者が異なる税金の1つです。担税者は一般消費者で、納税者は消費税を納める義務のある消費税納税義務者です。
消費者は、お店で物を買ったり、サービスを受けたりするごとに代金と一緒に消費税を支払います。消費税を預かった事業者は、事業活動の中で支払った消費税を差引いて、差額を納税します。したがって、消費税は事業者を通過していくだけなので、基本的には消費税を負担することはありません。しかし、給与から差引かれる源泉所得税のように、「徴収と納税が同額」というきれいな形にはなっていないことがよくあります。これも消費税を難しくする要因の1つです。
消費税の納税義務が発生する事業者
消費税を納めなければならない事業者を消費税納税義務者(課税事業者)と呼びます。消費税の対象になる課税売上高が1年間で1,000万円を超えると納税義務者となります。
課税売上高とは消費税の課税対象になる日本国内の売上などをいい、消費税法上では「国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供」を課税売上高としています。
引用:国税庁|消費税のしくみ
この合計額が1,000万円を超えたら消費税納税事業者となり、税務署へ「消費税課税事業者届出書」を提出します。この届出は事業者側ではそれほど重要に思えないものですが、税務署は決算書だけで課税売上高が1,000万円を超えたかどうかを判断することができないため、必ず提出しましょう。
課税売上高が1,000万円を超える法人・個人事業主
消費税の申告と納税は、課税売上高が1,000万円を超えた年の翌々年から始まります。たとえば、2020年3月期(2019年4月1日~2020年3月31日)の課税売上高が1,000万円を超えることが確定するのは、決算が確定する2020年5月か6月になります。この時点で2021年3月期は始まって2~3ヵ月経ってしまっており、消費税の徴収を開始することができません。そのため、消費税を期の初めから徴収することができるのは2021年4月1日からの期になります。申告期限と納税期限は、2021年3月31日までの決算が確定した後の5月31日です。
法人税は申告期限の延長という制度があり、3ヵ月後等を申告納税期限にすることができますが、消費税も2021年4月決算法人より延長が可能になりましたので、法人税の延長をしている法人は、消費税の計算期間中に延長申請の届出を提出しましょう。
一方で課税売上高が1,000万円以下の事業者は免税事業者と呼ばれ、消費税の申告と納税の義務はありません。仮に、一度消費税納税義務者となっても、その後の課税期間で課税売上高が1,000万円以下になった場合には、翌々年は免税事業者になり、申告納税義務はなくなります。
そのほか、消費税の納税義務がある事業者
課税売上高が年間1,000万円を超えると消費税の納税義務者になりますが、1,000万円を超えない事業者でも納税義務者になる場合があります。
1つは、自ら消費税納税義務者になるために「消費税課税事業者選択届」を提出した場合、次の課税期間から消費税納税義務者になります。
もう1つとして、免税期間中の「特定期間」の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、翌課税期間から消費税の納税義務者になります。特定期間とは、法人の場合には期首から半年間で、個人事業者の場合には、1月1日から6月30日までをいいます。課税売上高に代えて給与支払額等の合計額で判定することもできます。
消費税がかからない取引とは
ここまで課税売上高という言葉をポイントに使ってきましたが、ここでは課税売上高にならない売上等について説明します。
簿記の勘定科目で、収益にかかわるものには売上高、受取利息、受取配当金、雑収入などがあります。消費税の課税は、このような勘定科目とは基本的に関係ありません。消費税では、課税対象になる収益等を「課税売上高」と呼び、支払いに関する主に仕入や交通費、通信費などの消費税の課税対象になる支払いを「課税仕入」と呼びます※。
そして、課税取引以外には、非課税取引と不課税(対象外)取引があります。
非課税取引は、課税対象になじまない取引や社会政策的な配慮から法律で非課税が決められている取引のことです。預貯金の利子、居住用物件の家賃、社会保険医療報酬、土地の譲渡などがこれにあたります。
不課税取引は、そもそも課税取引にはならない取引をいい、海外での取引や寄付や贈与、出資に係る配当などが該当します。
課税対象になるかどうかの判断は難しく、間違えたときには追加の納税税額も多くなるため、疑問が生じた際には税理士や税務署に相談することをおすすめします。
※ 仕入や交通費、通信費にも非課税取引や不課税取引もあります
法人消費税の計算方法
消費税の納税額の計算方法には大きく分けて2つあり、原則課税方式(一般課税)と簡易課税方式があります。
原則課税方式
原則課税方式は、預かった消費税から支払った消費税を差引いた差額を納める方式です。
たとえば、
売上高に関する消費税額:100万円(課税売上高1,000万円)
仕入に関する消費税額:30万円(課税仕入高300万円)
販売費および一般管理費に関する消費税額:40万円(課税仕入高400万円)
の場合には、
100万円-30万円-40万円=30万円を納税することになります※。
※ 実際には計算の順番により切り捨て計算などもあり、このような単純な計算ではありませんので、あくまでイメージと捉えてください
原則課税方式を選択したときのデメリットは消費税の計算と集計が大変な点で、毎日複数の取引が発生する会社では、会計ソフトなどを使って自動的に集計をしない限りは、正確な計算結果を出すのは難しいです。
メリットは、課税仕入が多く発生した年には、消費税が還付になることもあり、このような場合には原則課税方式の採用が有利です。
簡易課税方式
簡易課税方式は課税売上高が5,000万円以下の事業者が対象で、課税仕入高の計算と集計をする必要がないため、納税額の計算はとても簡単です。課税売上高の合計を6つの取引種類別に分けて、みなし仕入率をかけて課税仕入高を計算します。したがって、みなし仕入率は会社の事業内容で決まるのではなく、取引ごとに変わります。
簡易課税方式を選択する場合には、消費税の課税期間が始まる前日までに簡易課税の選択届を提出する必要があります。また、一度簡易課税を選択すると、選択の不適用届を提出するまで簡易課税事業者のままです。課税売上高が5,000万円を超えた翌々年は原則課税の適用になりますが、再び5,000万円を切った場合には簡易課税が適用されますので、簡易課税を選択していることを忘れないでおく必要があります。
e-Taxを利用している場合には、決算のころに税務署から申告のお知らせがメッセージボックスに届きます。そこに簡易課税選択の有無が記載されているので、確認する習慣をつけるようにするといいでしょう。
みなし仕入れ率とは?
簡易課税方式を選択した場合のみなし仕入率は以下のとおりです。

引用:国税庁|No.6509 簡易課税制度の事業区分
たとえば、会社がもつ自社ビルに賃貸部分があり、そのビル内で飲食店を経営し、その年に固定資産の売却をしている場合の消費税納税額は以下のとおりになります。
賃貸料収入:1,000万円 第6種事業 40% みなし課税仕入高400万円
飲食店売上:2,000万円 第4種事業 60% みなし課税仕入高1,200万円
固定資産売却:500万円 第4種事業 60% みなし課税仕入高300万円
みなし課税仕入高:400万円+1,200万円+300万円=1,900万円 消費税額190万円
課税売上高:1,000万円+2,000万円+500万円=3,500万円 消費税額350万円
納税金額:350万円-190万円=160万円
まとめ
消費税の基礎のみの紹介となりましたが、消費税は細かい点がとても難しく本記事ではほとんど説明しきれていません。消費税について知らなかったり、気が付かなかったりすれば、納税額の計算を間違えてしまいます。また、原則課税方式と簡易課税方式の選択は、先の営業活動予定にあわせて検討しなければならず、特に届出の提出を怠ったために大きな納税額になったり、還付の機会を逃したりするケースは少なくありません。軽減税率の導入やインボイス制度の導入により、消費税はより複雑になっており、この先は今まで以上に顧問税理士と相談する機会を増やしていくことをおすすめします。
執筆者プロフィール:
須栗 一浩(税理士)
税理士法人エムエスオフィス 代表。1995年に税理士登録し、これまで個人法人の関与先クライアントは500件をこえる。個人事業の開業から、法人設立、相続税まで含めたトータルのコンサルタント業務をおこなう。企業のICT化も推進し、クライアント企業への導入も進めている。ファルクラム租税法研究会研究員。
上記内容は、執筆者の見解であり、住信SBIネット銀行の見解を示しているものではございません。